父は小さい頃から猫を飼っていて、かなりの猫好きである。習性にも詳しい。
時には、野良を拾ってくる事もあり、我が家では同時に５〜６匹飼っていた時期もある。
しかし、後で越してきたご近所さんが猫嫌いな為、飼い猫が失踪したのを機に、もう飼わない事にした。

ある日の事。
父は、母屋の横にある小屋の中で子猫が鳴くのを聞いた。
野良猫が小屋に入り込んで出産したのだ。
「このまま住みついては困るな・・・。」
「しかし、ヘタに子猫を触って外に出せば、親猫が食い殺してしまうかもしれん。」
そう思った父は、猫の習性を利用して、自分から出て行ってもらう方法を実行した。

その方法はいたって簡単だった。
「にゃーーお！」
「にゃーーお！」
父は小屋に向かって、江戸屋猫八ばりに猫の鳴き真似を始めた。
そうすると、親猫は危険を感じて子猫の居場所を変えるというのだ。

「にゃーーお！」
「うわぁーーお！！」
父は、これ見よがしに大声で鳴いてみせた。
そして、続けていくうちに段々エスカレートして、
「フーーーーッ！！」
と威嚇する鳴き声までしてみせた。

・・・そこで初めて、父は、後ろで見ている近所の人の視線に気が付いた。
「いや、野良猫が子を産んどるもんで・・・」

その後、父は近所の人に、
「猫は出ていったかな？」
と、笑いながら聞かれるのだった。

しかし、あっぱれ・・・。
猫の親子は、父が威嚇したその日のうちに小屋から出て行ったのである。